流行に乗る

ルミネのCMに非難が殺到しているということで、ゴシップ好きとしてはいっちょ見ておかねばならん、と問題のCMを視聴しました。
その反響の大きさ故でしょう、公式サイトへの謝罪文の掲載と共に、現在そのCMは非公開となっています。ので見ることが出来ません。

ざっくり内容。

オフィスへ向かう主人公の女性、入り口で上司らしき男性と挨拶を交わす。
「顔疲れてるけど残業?」と訊かれ、戸惑いつつ「普通に寝ました…」と返答。「寝て、それ?」と嘲笑される。
別の女性が現れ、打って変わって男性が明るい調子で「髪切った?」と尋ねる。女性、にっこり微笑んで「巻いただけですぅ〜」
「かわいいなぁあの子〜」とデレる男性に「いい子ですしね」と相槌を打つと、「大丈夫、お前とは需要が違うから」と返されてしまう。
それを受け、「最近サボってた?」と気付く主人公。「変わりたい?変わらなきゃ」のテロップが表示される。

こんな感じ。主人公の女性は、ひっつめ頭。ボーダーにロールアップパンツ、トレンチコートを羽織っています。「かわいいあの子」はいわゆる赤文字系っていうんですか?ゆるふわコンサバティブな格好。
そして需要が違う云々のところではこんな表示が。


なかなかあからさまで…

つまりこの上司の方は、主人公には女性性を、かわいいあの子には仕事上の有能さを求めていないってことで、これは二人ともを貶めていることになると思うのです。主人公だっておしゃれしてるかもしれないし(つーか、実際おしゃれ)、かわいいあの子も仕事を頑張ってるかもしれないじゃない…。典型的なセクシャル・ハラスメントを「あるある」的な仕上がりにし、その心は「働く女性を応援」。はてな
ま、こういう内容のことって、其処此処に転がっていると思うのです。多くの女性は会社だけではなく、様々な人間関係の中で、それを受けたことがあり、日々躓かされている女性達からすると、このCMに腹を立てるのは当然だと思います。こいつぁ騒がれても仕方がないなぁ。
このCMは私たちにすり込まれた因襲的な思想により、1分弱という短い時間ながらとても視聴者にわかりやすい作りとなっていると思います。男らしさ、女らしさという観念が、「男は度胸、女は愛嬌」といった定型を作り、これに迎合しない人間は価値が低いのだと判断するのです。セクシャル・ハラスメントはジェンダー・ハラスメントの一部。その源泉にあるのはこういった「らしさ教育」なのではないか。なーんつってな、子を持っていない私には現在の教育事情はわかりませんが、私自身はまだまだ「かくあるべき」という考えに縛られまくっています。「男のくせに」というような考えが、ふとしたところで出てくるので、ホント、人のこと言えません。


私はこれを見て、最後に「変わりたい?変わらなきゃ」となるのが一番「????」でした。意中の男性に言われて、「彼好みの女になって射止めてやる!」てな流れならぜんっぜん同意は出来ないけれどまぁわからないでもない*1…のですが、そういう訳でもなし。彼女はこれから男性の目を楽しませる「職場の華」たらんと努力するということでしょうか?なぜ、このCMの中で女性は一貫して選ばれる側・品評される側なのでしょうか?私がこのCMで違和感を感じた一番は、そこです。


ではここで、一本の映画をご紹介。

ブロンドでおしゃれが大好きなリース・ウィザースプーンが、その見た目とキャラクターのお陰で誰からも見くびられるという役柄。まず、冒頭で上院議員を目指しているボーイフレンドに「ボクに相応しいのは、マリリンではなくジャッキーだ」*2などと髪の色を理由にいきなり振られてしまいます。「ブロンド=おバカ,ブルネット=知的」というイメージから出た言葉でしょうね。そんな彼の愛を取り戻すべく、彼女はロー・スクールへの入学を決意。猛勉強の末、晴れて審査に合格しますが、彼にはすでにブルネットの婚約者(セルマ・ブレア、美人!)が。頑張って入った学校でも派手な外見が災いして、孤立し、差別され、悪質なセクハラまで受けてしまう。そんな偏見の中にあっても、彼女は髪を暗く染めたり、フェイバリット・カラーのピンクを手放したりはせず、あくまで自分自身であり続けながら努力を重ねます。一方、ライバルの婚約者も、実習中に女性というだけでお茶汲みばかりを命じられ、発言する機会を奪われてしまったり…。最終的に、奪われたり与えられたり選ばれたりされる対象だった彼女たちは、髪の色なんて関係なくそこから解放されます。好きな服は好きだし、仕事にも打ち込むし、キャリアアップを餌にセックス*3を強要する馬鹿も見た目で能力を判断する馬鹿も願い下げだっつーのー!と。
まぁ、典型的なガールズ・サクセス・ストーリーで、話の運びもご都合主義的なものなので見る人によっては馬鹿馬鹿しく映るかもしれませんが、常に他者からジャッジをされ続ける主人公が最後まで、西海岸で培われた精神を捨てずに事を成し遂げていく様は、見ていて溜飲が下がりました。男性はどう思うでしょうね。

蛇足ですが、きゃりーぱみゅぱみゅの「もんだいガール」

このMVの中で、キューティ・ブロンドをイメージしたシーンがあるとか。参考→OKMusic - ソーシャルミュージックサイト - オーケーミュージック
そしてこの曲が、あらゆるジェンダー問題を詰め込んでいると評判のドラマ「問題のあるレストラン」の主題歌というのもなかなか面白いものです。最初の方を見逃してしまって、残念ながら一度も見たことがないのですが…DVD出たら絶対見よう。


ジェンダー・ハラスメントは無意識下にまだまだ深く根ざしているのでしょう。でも、今やこういった問題に様々な議論がなされているし、そういう場所も数多くある時代。なので、ルミネさん。ちょっと消しちゃうの、早かったかも。ルミネ側と消費者側の対話とまではいかなかったですね。企業としては悪くない対応だったけど、女性がターゲットの広告でこうなるって、面白いきっかけだったなぁと思うので。私も凝り固まった社会通念というか社会的役割についての考え方、見直さなければね。
手始めに夫にばかり害虫駆除させないようにする?

*1:そんな馬鹿ヤメロ、と言うと思う

*2:ジャッキーはケネディ大統領の妻、ジャックリーンのこと。ちなみにマリリン・モンローケネディは不倫関係にあったとか。

*3:行為ではなく、性別、という意味で